【小説紹介】三日間の幸福 | 書籍レビュー

小説

あらすじ

いなくなる人のこと、好きになっても、仕方ないんですけどね。

 どうやら俺の人生には、今後何一つ良いことがないらしい。寿命の“査定価格”が一年につき一万円ぽっちだったのは、そのせいだ。
 未来を悲観して寿命の大半を売り払った俺は、僅かな余生で幸せを掴もうと躍起になるが、何をやっても裏目に出る。空回りし続ける俺を醒めた目で見つめる、「監視員」のミヤギ。彼女の為に生きることこそが一番の幸せなのだと気付く頃には、俺の寿命は二か月を切っていた。
 ウェブで大人気のエピソードがついに文庫化。
(原題:『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』)

三日間の幸福 メディアワークス文庫

レビュー

【ジャンル】青春小説、現代ドラマ、恋愛

評価

ストーリー…★★★★☆ 

読みやすさ…★★★★☆

長さ   …★★★☆☆

斬新さ  …★★★★☆

読後感  …★★★☆☆

待ち時間の消化用にと軽い気持ちで購入しましたが、一度読みだすと続きが気になり1日で読了。寿命を売ることができるという斬新な設定はいわずもがな、主要な登場キャラクターの「クスノキ」「ミヤギ」はとても魅力的でしたね。

勉強や仕事といった「すべきこと」で1日の大半を終えている普段の生活と照らし合わせて考えると、作中で主人公が過ごしていた時間はどこまでもかけがえのないものに感じられました。

かけがえのない=幸せとも限らないというのが現実に即していて何とも素晴らしかったですね。ときとしてそれは「裏切り」であったり「侮辱」や「憎悪」「嘲笑」といったマイナスな事柄でもありました。本作においてはむしろ無情な現実に直面する場面が多かったように思いますね。もう老い先短いのにそこまで不幸を噛みしめなくても…と不合理な展開を少し呪いたくなりました。

自分が主人公の立場なら同じように行動したかもしれないシーンがいくつもあり、もう取り戻すことのできない過去の人間関係や、すべてを手放し清算してはじめて気づく自分自身の”根っこ”。

たまたま目に入ったという理由にはそぐわない、価格以上の感動をいただきました。

感想(ネタバレ注意)

寿命を売ることができるお店

査定基準は幸福度。自分がこれからの人生でどれだけ幸福だったか、夢を叶えたか、どれだけ人を幸せにしたのか、どれだけ社会に貢献したのか。

あらすじにあるように、本作の主人公「クスノキ」の人生は1年につき1万円と査定される。時給に換算すると1.14155251円。円周率にすら負けています。こんな額面を出されるくらいなら「あなたの人生お先真っ暗ですね」と道端の占い師に告げられるほうがまだマシかもしれません。

寿命が残り3ヵ月となって彼がしたためた「死ぬまでにやりたいことリスト」。ひとつ消化するたびに監視員「ミヤギ」から突き付けられる無情な現実。打ちのめされている暇などなく、また次の答え合わせへ。人生は短い。この作品においてはまさに言葉通りの意味で。

もうこれ以上あとがないと思い知らされて、人はようやく自分が本当にやりたいことに気づきます。本心から好きだったものを思い出します。

「俺は、こんなにも素晴らしい世界に住んでいたのに」「今の俺には、すべてを受け入れて生きることができるのに」といった後悔や嘆きが深ければ深いほど、世界はかえって、残酷なくらいに美しくなるのではないでしょうか。

三秋 縋(あとがきより)

本作は主人公「クスノキ」の一人称で描かれています。すべてを諦め手放した先にある「残酷なくらいに美しい世界」にみなさんも足を運んでみてはいかがでしょうか。

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